活動実績

実際にマッチングした実績をご紹介

株式会社大原商店

代表取締役 :  大原 康史 (三代目)

  • 受入企業の概要

大原商店は、京都で和装小物および和装下着の企画・製造・販売を行う企業です。創業以来、和装文化の伝統を大切にしながらも、時代の変化や現代の生活スタイルに合った製品づくりに挑戦してきました。近年では、従来の和装の常識にとらわれず、洋装の技術や現代的なデザイン感覚も積極的に取り入れ、より快適でスタイリッシュな和装のあり方を提案しています。 

職人の技術を守りつつも、社内だけに閉じず、外部の知見を取り入れる姿勢を大切にしており、その一環として地域企業「担い手交流」実践プログラムを通じた外部人材の受入れを行いました。

  • 受入れ前の課題

当時、特に課題として大きかったのは、和装下着の分野における品質基準・サイズ感が現代の感覚ではなかったことです。和装業界は長年「職人の経験と勘」に支えられてきた面があり、作業や判断が個々の担当者の経験に大きく依存しており、標準化が十分に進んでいませんでした。寸法表や仕様書といった基礎資料がほとんど存在せず、「この商品の本来のサイズは?」「どんな縫製仕様で作るべきか?」といった基本情報が明文化されていない状況でした。そのため、同じ品番の商品であってもできあがりのサイズに若干の個体差があるなど、品質のばらつきが発生していました。 

社内では「和装はこういうものだから」「このやり方で問題ない」という暗黙の了解が長く続いていました。しかし、時代に合った製品開発を進めるには、外部の専門家による視点が必要だと強く感じていた時期でもありました。

  • どんな方に来ていただいたか

この課題を解決するため、本プログラムを通じて外部の人材をお迎えしました。お越しいただいたのは、長年大手下着メーカーでクリエイターとして活躍されてきた敷地屋さんです。 

敷地屋さんは、下着分野でデザイナー、パタンナー、プランナーなど幅広い職務を経験され、素材から縫製、パターン、ブランド運営まで総合的な知見を持っています。面談の際、「この方ならぜひ一緒にやってみたい」と感じ、週3日の時短勤務という形での受入れを決定しました。 

敷地屋さんには、和装下着の全体的な見直しから仕様整備、素材の再検討、製造工程の改善まで、下着づくりの基盤となる部分を全面的に担当していただきました。和装と洋装両方の下着づくりを知る方の経験は、社内に新しい気づきをもたらしました。

  • どのように活躍されたか

敷地屋さんの最初の取組は、既存商品の採寸と仕様書づくりでした。10着以上の社内在庫をひとつずつ採寸し、誤差やばらつきを細かく分析。データ化することで「同じMサイズなのにここまで違うのか」と社内で課題を共有できるようになりました。

分析結果をもとに、曖昧だった仕様や縫製基準を整理し、寸法表・仕様書を整備。従来「できない」とされていた工程も、敷地屋さんが裁断やパターン作成を担うことで可能となり、製造が大きく前進しました。 さらに、敷地屋さんと一緒に新たな縫製加工場や素材メーカーを開拓し、発注先の選択肢が増えました。これにより品質向上と生産効率の双方が改善され、業務が整理されたことで、新しい事業構想にも着手できるようになりました。社内では「改善を前向きに受け止める」風土が育ち、意識改革も自然と進みました。

  • 和装下着・和装小物のデザインにどのような影響や効果があったか

品質基準が整ったことで、和装下着の着心地は格段に安定しました。洋装インナーで培われた素材選定やパターン技術が導入され、機能性と美しさを両立した新しいデザイン開発が進んでいます。

また、着付け師の先生と敷地屋さん、社内スタッフの三者で開発を進める体制が整い、実際の着付け現場で必要とされる機能を反映した製品づくりが可能になりました。こうした取組の中で、Tシャツ型和装下着ブランドの事業譲渡を受け入れる決断もできました。「社内にプロがいるなら安心」と前事業主に言っていただけたことは、敷地屋さんの存在の大きさを象徴しています。

祇園祭り中のイベント風景
  • 外部人材の受入れに関心を持っていらっしゃる企業さまへ一言

外部人材の受入れには勇気が必要ですが、その価値は非常に大きいと感じています。自社だけでは気づけない課題が明確になり、改善スピードが一気に上がります。業界の「当たり前」を問い直す機会となり、組織全体の意識が変わります。

伝統を守るためには、あえて外部の視点を取り入れ、変化を受け入れる柔軟さが必要です。外部人材と一緒に試行錯誤するプロセス自体が、組織の成長につながると実感しています。

~~敷地屋さんコメント~~

和装下着の製造は経験や感覚に頼る部分が大きいため、誰が作っても同じ品質になる「仕組みづくり」が何より重要だと感じました。寸法や仕様を整えることで着心地が安定し、素材や裁縫方法を見直すことでデザインの自由度も広がりました。

また、社内の皆さんが改善の目的を共有し、互いに学び合う雰囲気が生まれたことも大きな成果です。外部の人間が入ることで現場の意識に変化が起き、改善のスピードが一気に上がっていくのを実感しました。受入れ側と共に考えながら進めるそのプロセス自体が、企業全体の成長につながっていると実感しています。