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2022年12月21日 《 お知らせ 》

【京都市主催】11月18日開催 地域企業における 副業・兼業制度活用促進セミナー セミナーレポート②

■京都企業の事例紹介 関西巻取箔工業株式会社 取締役C.O.O 久保昇平氏

1952年、京都市左京区大原にて創業以来、戦後の顔料箔製造を牽引するパイオニア的な存在の関西巻取箔工業、『KANMAKI』。コア技術であるグラビアコーティングを軸に年間400を超える新規プロジェクトの試作開発を行い、お客様のニーズに応じた顔料箔ソリューションを、既存の枠に縛られずに提案しています。

社員が10名程の『KANMAKI』が、どのように外部人材を活用しているのか。

自身も舞台演出、京都市起業家育成支援を受けての起業、2019年経済産業省「始動 Next Innovator」プロジェクトでのプレゼンコンテストで最優秀賞受賞などユニークな経歴を持つ、同社取締役C.O.Oの久保昇平氏に、外部人材の活用事例を伺いました。


外部人材の活用に取り組んだ経緯

『組織の成長』と『個人の成長』、どうしてもギャップがでませんか?
経営者としてどちらを優先しますか?

そう問いかけると、経営者としては組織の成長を取らざるを得ないですよね。
でも、そのどちらもあきらめない欲張りな方法はないのかと考えていました。

そんな中、2020年の6月、新型コロナウィルスの感染拡大による1回目の緊急事態宣言の影響を受け、めちゃくちゃ暇になりました。そしてこの影響は、2年は続くと予想しました。

この間、給与を上げることは難しくなる。でも、社員にとってプラスになるものとして“時間”なら渡せるのではないかと考え、給与は変わらないけど休みは1日増えて、労働時間も増えない、そんな週休3日制というのを実験導入してみました(現在も継続中)。

その分、5日でやっていた仕事を4日で仕上げることになり、生産性を25%上げなければならないので、社員の底上げ、スキルアップも必要です。

そこで、社員のスキルアップを支援するために、専門家・フリーランス・副業人材・シニアの方といった外部人材によって構成する『KANMAKI  MASTERS  LEAGUE』を立ち上げ、社内に無い経験値と組織の成長に必要なスピード感を得ることにしました。


例えば、広報をやりたい社員がいても、すぐにできるわけではない。だったら、今やらなければならない広報業務を外部人材に任せて、組織の成長スピードは落とさない。そこに社員をアシスタント的につけて、外部人材の方には「いわゆる家庭教師」の役割を担っていただいて、社員の成長スピードも上げるという仕組みです。

『KANMAKI  MASTERS  LEAGUE』の方の面談の際には、社員の育成もやってくださいねと、最初に依頼をしています。

私は取締役C.O.Oという立場なのですが、色々な部署の部門長をやっています。良い面でいうと、意思決定がすごく早い。ただ、部門長の仕事は、意思決定だけではなく、その部門の人材育成も、重要な仕事だと思うんです。その点で、私は、一人一人の育成に割く時間が取れない。そんな社員の「困ったときに聞きたい」、「教えて欲しい」という、自分が満たせていないニーズを、外部人材の方にお願いしているケースが多いです。

労働時間としては月に20時間、報酬は5万円程度です。そのくらいの条件であれば、比較的応募される方が多いという印象です。

社員が納得できる外部人材の採用

外部の人が入るとき、1人目ってすごく重要なんです。我々の会社は、エンジニア的なモノづくりというより、職人的なカルチャーの中で、70年続いてきた企業なので、新しいものを開発したりする際のアプローチ方法・考え方・エビデンスの取り方は我流な部分が非常に多い。

今、社員が10名で平均年齢が35歳。下は22歳から上は51歳まで。5~6年かけて世代交代をしてきました。若い企業と言われるのですが、その分自分たちの経験の中で、培ってきたものがなかったり、原理原則的に言葉で説明できる人材が少なかったりしたので、理系的アプローチ、特に化学(バケガク)的な考え方が分かっている方を採用しました。「先生が来た」という感じで、基本的には反発もなく迎えることができました。

顧問というより、もっと現場に介入して、社員が納得する経歴を持った方を1人目に据えたことがすごく大きかったと思います。

短期的ではなく、中長期的な視点での外部人材活用

『KANMAKI  MASTERS  LEAGUE』は稼働して半年強。最初に細かい数値は伝えず、中長期的に「こんなカルチャーをつくりたい」とか、「何年後に社外からこんな認識をされるメーカーになりたいという」ビジョンと熱意を伝え、自社でできること、できないことを共有しただけです。なぜなら数値目標をつくろうにも、外部人材の方は教科書のないニッチなモノづくり企業の現場を知らないので、その目標が妥当なのかも判断できません。だから、それを紐解いてもらうため、3ヶ月程度の時間をかけて、インプットをしています。

『京都』は最強のローカル

最初の副業人材は、「京都で70年ものづくりをやっている企業のアトツギが、業界に革命を起こしたい、その手助けをしてくれるCXO募集」のような、非常に広い範囲での募集でした。70名程応募がありました。

応募された方が、どういうキーワードに反応されているのか。

「大学時代、京都にいました」、「妻の実家が京都です」、そういう京都にゆかりのある方が多くて、応募動機も京都の会社(特に歴史のある製造業)に、自分のスキルとかノウハウを使いたいというものでした。そういう意味では『京都』は最強のローカルだと思っています。

面白いと思ったのは、スタートアップのIT企業で役員をされている方から応募があったことです。大抵そういう場合、「そのアトツギの右腕や、壁打ち相手になりますよ」という話が多いのですが、「製造業からITに転職をして役員をしているが、ゆくゆくは製造業に戻りたい。けど、10年ほど前の製造業しか知らないから、自分の知見を活かしながら、製造業に戻るときのロールプレイングをしてみたい」という応募理由でした。中長期的なキャリアプランを考える上で『モノづくり』、製造業に興味を持っている副業人材も多いんじゃないかと思います。

外部人材を受け入れる側が結果にコミットする

最終的に結果は経営者や、プロジェクトのリーダーがコミットするという覚悟を持って、外部人材の活用をした方がいいと思います。

あくまで外部人材は外の人。組織をドライブさせるだけでなく、現場のボトムアップが効果として比例してこないとダメだと思います。

外部人材からのメッセージを社内で受け取って、最初は別にダメ出し満載のものでもいいので、きちんとボールを投げ返せるようにボトムアップできると、外部人材の活用もより上手く機能してくると思います。

この半年間、常時起動している外部人材の方は5名、デザイナーさんやスポットの人を入れると7~8名になりますが、その人たちとコミュニケーションを取るためには、自分も素人であってはいけない。その人たちが提案したものを目利きできる知識をつけるために勉強したり、正社員は増えてなくても、実際に自分がマネジメントしているスタッフが倍になっていたりするので、私の責任も増えて忙しくなりました。


社員は、なりたい姿を目指して成長したい、それに対して外部人材の人たちは、自分のスキルを活かして挑戦したいとか、能力・スキル・経験の汎用性を試したいと、よく話をされるので、この関係性は上手くマッチすると思います。

小さな会社ではロールモデルが少ないので、憧れの先輩がいないケースがほとんどです。スペシャルなものを持っている外部人材の人たちをコーチとして、自分の理想を目指して成長する、そういう流れを作りたいと思っています。

もう一つ、若年層の定着が企業の課題とよく言われますが、若手に向けてセミナーをするよりも、会社の中に魅力的な中堅を増やすことが必要なのではと常々考えています。外部人材の人のバリエーションも増していくと、社内の中堅・先輩社員も、その外部人材によって磨かれるので、結果的に若手人材の定着に繋がる可能性があると考えています。


今回のセミナーでは、『社員10名程の会社がなぜこんなに賞をとれるようになったのか』、と書いていただいていますが、時系列的には逆で、このコロナ禍、戦略的に賞を取りにいきました。

我々は、ニッチなモノづくりをしている小さな町工場、何をやっているか分からない。

そこで、自分たち以外の人や団体に、企業価値を認めてもらう、PRしてもらうことを目的に、時代のニーズであるソーシャルビジネスやSDGsに関連する認証や賞を取ることにも挑戦しました。京都市の「これからの1000年を紡ぐ企業」もその一つです。

そうすることで、この会社面白いから入社したいと思った学生さんが、両親に反対されても「KANMAKIって会社はね、こんな賞をもらっている会社なんだよ」と言える材料になって、今後の新卒採用でも効いてくるんじゃないかなと、希望的観測で思っています。

将来的に、個々人のスキル把握や人事評価も外部人材を活用して客観的にできるのではないかなと思っています。業務フローの改善・整備も社員と外部人材が一緒にやるので、スキルアップの状況が可視化されるんです。

私は社内での色々な業務をしていますので、どうしても社員一人一人に向き合える時間が少なくなってしまいます。社内の先輩が「情」で評価しがちな部分を、外部の人が客観的に「理」で評価してくれるので、情と理でバランスよく評価していただけて、社員の納得感も高いし、こちらも説明しやすいかなと思います。

[Q&A]

Q:繰り返しビジョンの共有をされてきたと感じましたが、社員の皆さんに対して、どういったことを意識してこられたのか教えてください。

A:創業者「久保竹夫商店」をいかに脱却するのか。「会社はみんなが乗ってるひとつの“船”」。船長(経営者)も含めてみんなが乗組員。、だからその船が沈まないようにどうすればいいか、みんなで考える。自分から会社を良くするための工夫をしようとする帰属意識が持てるように、船長としてとして中長期的な視点で個人に対してできることをやる。という風に考えています。

 

■振り返りワークショップ(会場参加者のみ)


社会保険労務士も交え、本日のセミナーからの外部人材活用に関する気づきや、他社での取り組みなど情報交換を行いました。

参加者の発言を一部ご紹介します。

(参加者)「外部人材の活用は、時間を切り売りするイメージでしたが、今回のセミナーで、アドバイスや知見を聞くという活用方法があると知ることができた」

(参加者「ヤフー 大森さんの話を聞き、何かを始めるには、推進する部署から率先して行動しなければ浸透しないというのがわかった」


(参加者)「久保さんの話の中から、お手本となる中堅社員を育てることが、若手の定着に繋がるという新たなピントを教えてもらった」

(参加者)「久保さんの家庭教師という発想、そんな発想があったんやとびっくりした」

(参加者)「『製造業は外部人材の活用は無理だろう』と言われる企業が多いが、関巻さんのような事例であれば、活用可能かもと感じた」

(参加者)「報酬の単価が思ったよりも少ない(月20時間で5万円程度)ので導入リスクが小さいと思った」


今回のセミナーは、『外部人材の活用』がメインテーマでしたが、ワークショップでは、自社の社員に副業を認める際の労働時間管理などを社会保険労務士に相談する企業も。

大手企業・京都企業の事例から、外部人材活用のイメージを少し持っていただけたのではないでしょうか。
正社員採用に比べて、比較的活用リスクも小さい。副業は買い手有利な市場です。失敗を恐れず、外部人材の活用にトライしてみませんか。